相続は、多くの人にとって避けて通れない道です。しかし、その手続きは複雑で、時には予期せぬ障害が立ちはだかることもあります。特に、行方不明の相続人がいる場合、手続きはさらに煩雑になり得ます。この記事では、相続手続きの全体像を明らかにし、必要な書類の準備から法的手続き、遺産分割協議の進め方、遺言書の重要性など、一歩一歩丁寧に解説していきます。
相続手続きの全体像
相続手続きは、その人が亡くなった時点で始まります。これを「相続の発生」や「相続の開始」と表現され、ここから相続がスタートします。病院で亡くなった場合は「死亡診断書」を、それ以外の場所で亡くなった場合は「死体検案書」を医師から受け取ります。
必要な書類と基本的な流れ
以下に、相続手続きの基本的な流れと必要な書類を示します。
遺言書の確認
もし故人が遺言書を残している場合、遺言書の内容を確認します。
相続人の確定
故人の相続人を確定します。
相続財産の調査
遺産分割協議と遺産分割協議書の作成
限定承認か相続放棄をする場合はそれらの手続き
自己のために相続があったことを知ったときから3ヵ月以内に行う必要があります。
被相続人の所得税の準確定申告
死亡日の翌日から4ヵ月以内に行う必要があります。
名義変更手続き
預貯金、有価証券等の解約や名義変更を行います。
行方不明の相続人がいる場合の特別な手続き
行方不明の相続人がいる場合でも、手順を踏めば相続手続きを進めることが可能です。まずは、行方不明者の住所を確認しましょう。住所が分からなければ、戸籍の附票で確認します。住所がわかっていても生死不明の場合は、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申立てをする方法があります。
戸籍謄本と附票の取得
戸籍の附票とは、住所地の移動の履歴をまとめたもので、本籍地の役所で戸籍とともに管理されています。戸籍の附票の写しは本籍地の市区町村の役所で取得できます。戸籍謄本とは異なり、戸籍の附票は住所地のつながりを証明するために必要な書類です。
相続の法的手続き
相続手続きは、遺産分割協議、預貯金の相続にあたっての預貯金引き出しの手続き、不動産についての移転登記手続きなど、さまざまな手続きを行わなければなりません。また、相続する遺産に借金などがあれば、そもそも相続するかどうかについて「限定承認」や「相続放棄」の手続きを検討する必要もあります。
不在者財産管理人の選任
不在者財産管理人とは、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所は、申立てにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、財産管理人選任等の処分を行うことができます。このようにして選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができます。
失踪宣告とその手続き
失踪宣告とは、生死がわからない行方不明の人に対して、要件を満たすと法律上死亡したとみなす制度のことです。失踪宣告の手続きは、家庭裁判所に申立書を提出し、内部調査と公示催告手続きを経て、審判書が申立人に送付されます。審判書の送付後、2週間で失踪宣告の審判が確定し、その後市区町村に失踪届を提出して戸籍上死亡したものとなります。
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遺産分割協議の進め方
遺産分割協議の進め方、全員の合意が必要な理由、そして行方不明者に不利な遺産分割をしない方法を説明します。
遺言書の有無を確認する
亡くなった人が遺言書を残しているかどうかを確認します。遺言書がある場合は、原則としてそのとおりに遺産分割を行います。
相続人を調査・把握する
遺産分割協議には、相続人全員の参加が必須です。そのため、参加すべき相続人を調査・把握する必要があります。
相続財産を調査・把握する
遺産分割の対象となる相続財産を調査・把握することも必要です。
遺産の分け方を話し合う
相続人と相続財産の把握が完了したら、相続人全員参加のもと、具体的な遺産の分け方を話し合います。
遺産分割協議書を作成する
遺産分割の内容について合意が成立したら、その内容を遺産分割協議書にまとめて締結します。
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全員の合意が必要な理由
遺産分割協議は、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きであり、その結果は遺産分割協議書に記載されます。この遺産分割協議書は、相続人全員が合意した上で署名・押印を行うもので、これにより各相続人が取得する遺産が明確になります。したがって、全員の合意が必要なのは、遺産分割が公正かつ明確に行われ、後のトラブルを防ぐためです。
行方不明者に不利な遺産分割を回避するには
相続人が行方不明の場合、遺産分割協議は行えません。しかし、以下のような対策が考えられます。
住所や連絡先がわからないとき
住民票を取り寄せ、連絡を取る。
連絡しても回答が得られないとき
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる。
行方がわからないとき
不在者財産管理人を選任する。
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遺言書の重要性と作成方法
遺言書の重要性、作成方法、遺言書がある場合の手続きの簡略化、そして遺言執行者の役割と選定について説明します。
遺言書の重要性
遺言書は、自分が亡くなった後の財産の行き先を生前に決めておくための文書です。遺言書があると、遺産分割協議を省略でき、相続に関する手続きを簡略化させることができます。また、遺言書を残すことで、家族や親族内における遺産分割協議のもめごとを回避する効果が期待できます。
遺言書の作成方法
自筆証書遺言を作成する際には、以下の要件を必ず守る必要があります。
- 遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を必ず遺言者が自書し、押印する。
- 自書ではない財産目録が添付されている場合、全てのページに署名、押印する。
また、遺言書を作成するときに一番大切な点は、遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を必ず遺言者が自書し、押印することです。
遺言書がある場合の手続きの簡略化
遺言書がある場合、遺言書の内容どおりに相続を進めていきます。遺言書があると、遺産分割協議を省略でき、相続に関する手続きを簡略化させることができます。ただし、公正証書遺言以外で作成された遺言書については、家庭裁判所による検認手続きが必要となります。
遺言執行者の役割と選定
遺言執行者は、遺言の内容が確実に実行されるように手続きをする人のことです。遺言執行者は相続人全員の代理人として、不動産名義の変更や預金口座の解約などができます。遺言執行者が選任されていない場合は、相続人のうち誰かが率先して手続きをする。または、相続人全員で分担して手続きをします。相続人の全員が納得している場合、かならずしも遺言執行者を選定する必要はありません。
以上が遺言書の重要性、作成方法、遺言書がある場合の手続きの簡略化、そして遺言執行者の役割と選定についての説明です。遺言書は、自分の意志を明確にし、相続に関するトラブルを防ぐために重要です。
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まとめ
相続人の中に生死不明の者がいる場合は失踪宣告を、生存が確認できているが行方が分からない者がいる場合は不在者財産管理人を選任することで、その者が家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議を行います。失踪宣告が認められれば、失踪者は死亡したとみなされ、失踪者に相続人がいる場合はその者が遺産分割協議を行うことになります。相続手続きを放置すると相続人が増え、手続きが複雑になり、費用と時間がかかることになります。そのため、早めに専門家に相談し、解決することをお勧めします。
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